ビジネス

2025年5月25日 (日)

Right Kind of Wrong: The Science of Failing Well / Amy Edmondson

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確か、紀伊國屋書店の洋書フェアで見かけて面白そうだったので買った本だと思います。ようやく読めました。賢く失敗する、失敗から賢く学ぶためにはどうしたらよいか、そのような内容が書かれている本だと思います。

・「失敗」といっても、「良い失敗」「必要な失敗」「避けられない失敗」もあれば、「悪い失敗」「不必要な失敗」「避けられる失敗」もある。前者であれば、できるだけリスクを抑えながらどんどん失敗してそこから学ぶべきだし、後者であれば、起きてしまった失敗からしっかり学び、同様の失敗が起きないように対策をすべきである。

・失敗した時に、人は、その原因をしっかり考えなかったり、表面的な分析で終わらせたり、他人のせいにしたりする傾向がある。失敗から賢く学ぶためには、一旦立ち止まって、表面的な分析で終わってないか、自分にも落ち度がなかったのか等、失敗の原因を深く考えた上で、表面的でない一番良い対策方法を選ぶべきである。

・なにかにチャレンジする時には、状況をしっかり把握する必要がある。新しい分野でのチャレンジなのか、知識・ノウハウがある程度確立された分野でのチャレンジなのか、前者であれば、目的を明確にした上でどんどん失敗する必要があるし、後者であれば、既存の知識・ノウハウをしっかり学習して、余計な失敗をしないようにすべきである。また、失敗した時の影響(physical, financial and reputational)が大きいチャレンジなのか、失敗した時の影響が小さいチャレンジなのか、前者であれば、少しでも影響が小さくなるよう工夫し、慎重に進めるべきである。更に、複合的要因がからみ合う状況であれば、ことが大きくならないうちに失敗の目を摘むことができる仕組みを用意しておく必要がある。

・「良い失敗」を促進し「悪い失敗」をなるべく防ぐためには、組織の中に心理的安全性があることが大事である。組織として失敗から学ぶことができるように、積極的に失敗を共有するような仕組み・組織文化ができているか。失敗が起きそうなときに、誰でも声を上げることができるような仕組み・組織文化ができているか。失敗に関する情報が組織内でスムーズに流れていることが大事。

大まかには、上記のようなメッセージを本書から受け取りました。

洋書としては、具体例が豊富に出てくるので、最後まで興味深く読むことができました。使用単語も比較的易しいので、読み易いかと思います。また、トヨタの話が結構出てくるので、日本人には馴染みやすいかもしれませんね。

「失敗」を新たな視点で捉え直すことができる良い本だと思います。お勧めです。

 

最後に、覚えておきたいなぁ…と思ったフレーズを一つ。

Between stimulus and response there is a space. In that space is our power to choose our response. In our response lies our growth and our freedom.

-Attributed to Viltor E. Frankl

2024年8月24日 (土)

NOISE: A FLAW IN HUMAN JUDGMENT / Daniel Kahneman, Olivier Sibony, Cass R. Sunstein

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何かの記事で見かけて面白そうだったので読んでみました。本書の概要をざっくり書くと以下のような感じかと思います。

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裁判所による量刑、保険会社による保険料の算出、病院による診断及び治療方法の決定、会社等における採用活動及び社員の評価、会社における業績予想やM&A判断等々、組織で行われる様々な判断において、しばしば看過できない不公平、誤りが発生する。

その原因としてはバイアス(組織全体の偏った傾向)とノイズ(人毎の判断基準・能力の違い/その人自身の判断のゆれ)があり、バイアスについては認識され、改善努力が行われることが多いが、ノイズについては認識されることが少ないのが現状である。

実際に組織の判断におけるノイズについて調査してみると、思っていたよりもかなり多くのノイズが存在していることが分かる。ノイズを完全に排除することは難しいが、減らす方策はいくつもある。例えば…

・判断する人に余計な(不必要な)情報を与えない。
・複数の人の判断を平均化する。
・判断する事象に関する平均値(平均的な量刑、保険料、年間売上高、等々)を意識する。
・判断のガイドラインを作成する。
・数値等で評価する場合には、その数値毎にベースとなる具体的事例を用意する。
・評価する項目を明確かつ具体的に定め、一つずつ独立して判断する。

といった方策が挙げられる。ノイズによってもたらされる看過できない不公平や誤りを防ぐためにも、これらの方策を実施することを検討すべきである。

*************************************************************************
確かに、判断におけるバイアスについては見聞きすることも多く、日本社会や勤務先や自分が陥りがちなバイアスについて考えることもしばしばあるのですが、ノイズについては考えたことが殆どありませんでした。本書を読むことで、普段意識することのないノイズについてじっくり考えることができ、新たな視点を得ることができたと思います。

10年以上前に読んだDaniel Kahneman氏の「THINKIG, FAST AND SLOW」がそこそこ難しく、当時読むのに苦労したので、本書も身構えて読み始めたのですが、同書と比べると単語が平易で、かなり読みやすかったです。また具体的事例が豊富で、理解もしやすかったです。数式やグラフが出てきたり、400頁弱あったりするので万人にお勧めできるとは思いませんが、読む価値のある本だと思います。

日本語訳はこちら

2023年6月24日 (土)

THE CULTURE MAP / decoding how people think, lead, and get things done across cultures

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本書は、以前書店で見かけて気にはなっていたのですが、昨年読んだ「NO RULES RULES / NETFLIX and the Culture of Reinvention」に出てきたので、これを機会に読んでみました。2014年出版と少し古いですが、とても参考になりました。

国境をまたいで世界でビジネスを展開するにあたって、各国の文化・考え方の違いが障害になることが多いようです。本書では、まずは各国の文化・考え方の違いを明らかにし、その上でその違いをどのように乗り越えていったらよいかを提示しております。

本書では、以下の8つの点について、各国の文化・考え方の違いを整理しています。

1 コミュニケーションの方法が、どのくらい簡潔で明確で直接的か? どのくらい行間を読む必要があるか?

 (Low-Context or High-Context)

 →日本は最もHigh-Contextな国の一つ。

2 否定的な評価を、相手にどのくらい率直に直接的に伝えるか?

 (Direct negative feedback or Indirect negative feedback)

 →日本は最もIndirect negative feedbackな国の一つ。

3 相手を説得する時に、理論や理屈から入るか、事例や個人的見解から入るか、それともまず全体を俯瞰するか?

 (Principles-first or Applications-first, or Holistic thinking)

 →日本は他のアジアの国と同様にHolistic thinking。

4 上司と部下の距離はどのくらい離れているか、組織はどのくらい階層的か?

 (Egalitarian or Hierarchical)

 →日本は最もHierarchicalな国の一つ。

5 意思決定は、どのくらいトップダウンでなされるか?

 (Consensual or Top-down)

 →日本は最もConsensualな国の一つ。

6 ビジネス上の信頼関係が、どのくらい非公式な場、個人的な付き合いで築かれるか?

 (Task-based or Relationship-based)

 →日本はRelationship-based寄り。

7 不同意を、相手にどのくらい公に直接的に伝えるか?

 (Confrontational or Avoids confrontation)

 →日本は最もAvoids confrontationな国の一つ。

8 スケジュールや物事を進める順番をどのくらい正確に守るか?

 (Linear-time or Flexible-time)

 →日本はかなりLinear-time寄り。

各国の文化・考え方の違いを押さえるにあたり留意すべき点として、違いは相対的に捉える必要があるとのことです。例えば、アメリカ人とイギリス人で構成されるチームでは、イギリス人は「アメリカ人と比べて」どのような傾向があるのかを考える必要があるとのことです。

各国の文化・考え方の違いを乗り越える方法も、上記の8つの論点毎に丁寧に記載されていますが、大まかに言うと、チームを組んだ初期の段階で、各国の文化・考え方の違い・傾向についてお互いに話し合って理解した上で、今回のチームで適応されるルール(プロジェクトの進め方)について合意する、という手順を踏むのが効果的なようです。

本書では日本での事例が頻繁に出てくるので、日本人として当事者意識を持って本書を興味深く読むことができました。特に、上記の5点目(意思決定の仕方)において、日本の稟議書の仕組みについて「The Japanese Ringi System: Hierarchical But Ultra-Consensual」として5頁に亘って記載されているのが興味深かったです。常々「日本の会社では、意思決定が遅いよなぁ…役職者が偉そうにしている割には責任取らないよなぁ…」と思っていたので、その理由か分かったような気がして少しすっきりしました。あと、自分のこれまでの会社人生を振り返ると、会議等の大勢がいる場で、自分の意見を積極的に述べたり、役職が上の人の意見に対して異を唱えたり指摘したりしてきたのですが、日本の文化にはあまり馴染まないやり方だったなぁ…としみじみ思いました。風通しが良い組織になかなかならないのも、日本人の文化・考え方が影響していることが良く分かりました。

洋書の読み易さとしては、文章も単語も比較的平易で、読み易いと思います。

各国の文化・考え方の違いについて述べている本ではありますが、その過程で日本の文化・考え方の特徴も理解できるようになる(相対化できる)良書だと思います。これからのビジネスは、日本の少子高齢化も相まって、世界の方々と広く付き合っていかないと成り立たなくなると思いますので、本書は強くお勧めできると思います。私としては、若い時に読んでおきたかった…

日本語訳はこちら

2023年4月18日 (火)

Influence / The Psychology of Persuasion

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Guy Kawasaki氏がTEDの講演(の動画)で勧めていたので読んでみました。人の意思決定に大きな影響を与える要素として7つ原則を挙げ、一つずつ章ごとに説明していきます。

自分自身の経験に照らし合わせながら読むと「なるほどなぁ…」と思うことが沢山あり、最後まで楽しく読むことができました。例えば、茶葉の販売イベント(ルピシアのグラン・マルシェ)では、入場時にセンスの良い記念品がもらえるのですが、これは本書で言う「Reciprocation」の原則(他人に何かしてもらった時にはお返しをしたくなる人の性質)を期待していることが分かりますし、イベント会場のみの限定商品を用意するのは「Scarcity」の原則(手に入りにくいものはきっと良いものだろうと思う人の性質)を期待していることが分かります。また、「一番人気」や「売上第一位」との表示は「Social Proof」の原則(皆が良いと言っているものはきっと良いものだろうと思う人の性質)を、「バイヤーお勧め」との表示は「Authority」の原則(専門家が良いと言っているものはきっと良いものだろうと思う人の性質)を期待しているだと思います。

著者のRobert Cialdini氏は、人がそれらの7つの原則を使って意思決定すること、人がそれらの原則を使って相手の行動を促すことは非難しておらず、それらの原則を使おうとして「嘘をつく」ことを厳しく非難しています。上記のルピシアの例で言うと、もし仮に、イベント後にもお店で販売する予定にも拘らず「イベント限定」とうたって販売したら、それは厳しい非難に値するでしょう。これだけ情報が溢れかえる世の中になり、人がそれらの7つの原則を使わずにすべての意思決定を行うことは不可能なので、それらの原則を悪用することを決して許してはならないと強く主張しております。

洋書としては、具体的事例が豊富で読み易いと思いますが、なにせ400頁以上もあるので、読み終わるのに4ヶ月もかかってしまいました。途中で飽きることはありませんでしたが…

邦訳はこれかな?

2022年4月23日 (土)

NO RULES RULES / NETFLIX and the Culture of Reinvention

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NETFLIXの創業者の一人で現CEOのReed Hastings氏と、ビジネススクールの教授であるErin Meyer氏の共著です。NETFLIXが、イノベーションを起こし続ける為に、どのような企業文化を大切し、その企業文化を維持・強化する為にどのような方策をとっているのか、従業員に対するインタビューを交えながら具体的に分かりやすく説明しています。

2年くらい前に、NETFLIXのもう一人の創業者であるMarc Randolph氏の著書"That Will NEVER Work"を読み終わった後に、Reed Hastings氏の本(本書)が出版されているのを知って、いつか読みたいと思っていたのですが 、やっと読むことができました。

NETFLIXの企業文化は、ざっくりと言うと…

1 優秀な人材しかいないチームを作る。

2 常日頃から、お互いに率直に意見を言い合う。

3 現場の判断に任せる。

の3つに集約されるようです。そして、どれか一つでも欠けると機能しないとのこと。

上記1の文化を実現するためには、報酬は業績連動型にしない、優秀な人材に対してはマーケット以上(他社以上)の報酬を支払う、社内で成績の順位付けをしない、優秀とまでは言えない人材に対しては十分な退職手当を支払って去ってもらう、等の方策をとっています。

上記2の文化を実現するためには、定例会議でフィードバックの機会を設ける、有用な意見交換になるようフィードバックの仕方についてガイドラインを定める(4A : Aim to Assist, Actionable, Appreciate, Accept or Discard)、リーダが率先してフィードバックを求める、できるだけ多くの情報を従業員に開示する、年に1、2回は時間をかけてお互いにフィードバックし合う機会を設ける、等の方策をとっています。

上記3の文化を実現するためには、休暇の取得、経費の支出等について承認不要とする(忙しい期末は避ける、費用対効果を考慮する等、最低限の方針はチーム毎に話し合って決めておく)、自ら決断する前に他のメンバーと意見交換することを求める(但し、上司の顔色を伺うようなことはしない)、会社・部門の目標・戦略をメンバーに明確に伝える、等の方策をとっています。

正直な感想として、普通の会社で上記のような文化・方策を採用するのはちょっと難しいだろう、やり過ぎになってしまうだろう、と思いました(特に上記1)。また、上記のような文化・方策を日本で実践するのは、労働法制、文化等の違いがあるのでなかなか大変だろうと思いました。日本では、既存の会社というよりはスタートアップ等で採用・実践すると良さそうですね。

最後の10章(Bring It All to the World!)では、上記の企業文化を各国の従業員に共有してもらう為にどのような工夫をしているか記載されているのですが、その前提として「NETFLIX(アメリカ寄り)の文化・傾向」と「各国(日本含む)の文化・傾向」との違いがグラフ等で分析されていて、なかなか興味深かったです。1章から9章までは、読んでいて「とても良さそうな企業文化だけど、NETFLIXだからこそ実現できるんだろうなぁ…」という気持ちになりがちだったのですが、この10章は「なるほど、異なった背景を持つ人とコミュニケーションする時に役立ちそう」と思えて、とても参考になりました。

洋書としては、それほど難しい単語がなく、比較的易しい文章で書かれているので、とても読み易かったです。従業員のエピソードも沢山ちりばめられていて、読んでいて面白かったです。NETFLIXに少しでも興味のある方であれば、楽しく読めると思います。

ちなみに、邦訳はこちら

2020年8月29日 (土)

That Will NEVER Work / The Birth of NETFLIX and the Amazing Life of an Idea

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Netflixの創業者、Marc Randolph氏が同社の創業期を描いた作品です。Marcが、仕事仲間のReed Hastings氏と共に、オンラインでDVDをレンタルする会社(Netflix社)を1998年に創業し、dot-com bubbleなどの幾多の困難を乗り越えて2002年に上場を果たし、翌年にMarcが同社を離れるまでが描かれています。ちなみにReed Hastings氏は、現在もNetflixのCEOを務めております。

Netflixは、動画配信の会社として創業されたと思っていたのですが、本書を読んで初めて、元々はオンラインのDVDレンタル会社であったことを知りました。そして、当時すでにsubscription serviceを取り入れていたことにも驚きました。同社は、現在、コロナ禍の巣ごもり需要で会員が急増している注目企業ですので、タイムリーな読書になりました。

Marcの視点から描かれているので、少し都合よく書かれているとは思いますが、創業時の雑然とした、活気のある雰囲気や、会社が大きくなるにつれて次第に統制の取れた組織に変わっていく様子が、活き活きとユーモアを交えて描かれていて、最初から最後まで楽しく読むことができました。また、Marcが仕事だけでなく家族との時間も大切にする様子、仕事仲間を家族のように大事にする様子、自分の得意分野(と得意でない分野)を自覚して潔くNetflixを去っていく様子に、とても好感が持てました。

本書を読み終わったあとに、今度はReed Hastings氏に、Marcが去ったあとのNetflixについて(どのように試行錯誤して動画配信サービスへ移行していったかについて、等々)書いて欲しいと思いました。

読みやすさとしては、時々、難しい単語や、知らない映画等の話題が出てきますが、文章自体は読みやすかったです。創業時のメンバー、初期の頃のメンバーが、個性的に活き活きと描かれているので、読んでいて面白かったです。

最後に、Marc Randolf氏の言葉、同氏か引用した言葉をいくつか…

Nobody Knows Anything.

Don't knock, don't complain - stick to constructive, serious criticism.

You'll learn more in one hour of doing something than in a liftetime of thinking about it.

You have to learn to love the problem, not the solution. That's how you stay engaged when things take longer than you expected.

Everyone who has taken a shower has had an idea. But it's the people who gets out of the shower, towel off, and do something about it that make the dfference.

ちなみに、邦訳はこちら

 

2020年7月12日 (日)

COLLECTIVE GENIUS / The Art and Practice of Leading Innovation

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日経新聞で、GEジャパンの社長(浅井英里子氏)の愛読書の一冊として紹介されていた本で、面白そうだったので読んでみました。

世の中を変えるようなイノベーションは、一人の天才のひらめきのみから生まれることは稀で、大抵は、沢山の人の知恵・アイデアが積み重なって生まれる(Innovation is a "team sport.")。従って、イノベーションを生み出し続ける組織を作るためには、リーダーが率先して、沢山の人の知恵・アイデアが自然に積み重なっていくような環境を作らなければならない、と主張しています。具体的には次のような組織を作る必要があるとのことです。

1 変革を起こそうとする意欲(willingness to innovate)のある組織

→①共通の目的(mutual compelling purpose)、②変革を可能にする共通の価値観(bold ambition, collaboration, learning, responsibility)、③変革を可能にする共通のルール(mutual trust, mutual respect, mutual influence, question everything, be data driven, see the whole)がある組織

2 変革を起こす力(ability to innovate)のある組織

→①安心してお互いの意見、アイデアをぶつけ合うこと(creative abrasion)、②素早くアイデアを試し、失敗し、そこから学び続けること(creative agility)、③複数のアイデアから、折衷案ではない、より高い次元の解決策を導き出すこと(creative resolution)ができる組織

読んだ感想としましては、主張の整理の仕方が少し分かりにくかったのですが、具体的な企業・団体(Pixar, VW, ebay, Google, Pfizer, IBMなど)のリーダーの事例が、それなりのスペースを割いて丁寧に紹介されているので、最後まで飽きることなく興味深く読むことができました。2014年の著作と少し古いので、今読むと目新しさはそれほど感じませんが、自分自身の組織運営の仕方・スタイルを改めて振り返る良い機会となりました。

本書の中で特に同意できたのは、何事もバランスが大事だが、そのバランスをとるのが難しということ。そして、そのバランスをとることこそがリーダーの役割であるということ。例えば、「アイデアを試し、失敗し、そこから学ぶ」ということは、可能な限り「自由」にやらせた方が良いと思いますが、何でも自由にやらせていい訳ではなく、あるテーマ・目的に沿ったものだけ認めたり、予算や期限を明確に定めたり、データの収集・評価方法を予め定めておいたりと、ある程度の「規律」は必要になると思います。そして、その「自由」と「規律」のバランスをうまくとることこそがリーダーの役割なのだと思います。

あと、個人的には、昔読んだ本(The Blue Sweater)の著者であるJacqueline Novogratz氏(Acumen Fund)が紹介されていて、懐かしかったです。

文章も単語も比較的平易で読みやすいので、リーダーシップ論に興味のある方にはお勧めです。

邦訳はこちら

2020年4月12日 (日)

Freakonomics / A Rogue Economist Explores the Hidden Side of Everything (Revised Edition)

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初版は2005年と少し古いですが、売れた本だと思いますので、古本で買って読んでみました。

本書の話題は、生徒のテスト回答を書き換える先生の話(第一章)、八百長をする相撲力士の話(第一章)、集金に苦労するベーグル屋さんの話(第一章)、仲間内で秘密の言葉を使うKu Klux Klanの話(第二章)、売主の利益を第一には考えない不動産屋の話(第二章)、薄給の麻薬密売人の話(第三章)、親が子供の名前をどうつけるか(第六章)、親のしつけ等は子供にどのくらい影響を与えるのか(第五章)、銃とプールはどちらがより危険か(第五章)、なぜ選挙に行くのか(おまけ)、ギフトカードを送って得をするのは誰か(おまけ)…等々、本当に多岐にわたります。我々に身近な話題も多く、またどの話題も非常に面白く、読んでいて飽きませんでした。

さらに、どの話題でも、データを客観的に分析することで、より確からしい事実・説明に近づいていこうとする姿勢が感じられて、読んでいて好感が持て、また知的好奇心を刺激されました。中絶の合法化が犯罪の低下に最も貢献していることを客観的に分析してる箇所(第四章)では、データの残酷さを感じると共に、それでも感情に流されず、従来の常識にとられず、データを冷静に分析することの大切さを改めて強く感じました。

...if morality represents how people would like the world to work, then economics shows how it actually does work.

邦訳のタイトルが「ヤバい経済学」だったので、なんとなく軽そうな感じがして、しばらく読むのをためらっていたのですが、読んでみるとなかなか興味深い良い本でした。

2019年8月31日 (土)

Billion Dollar Whale: The Man Who Fooled Wall Street, Hollywood, and the World

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Wall Street Journalの記者が、マレーシア政府系ファンド”1MDB (Malaysia Development Berhad)”をめぐる詐欺事件の真相に迫るノンフィクションです。

本書の主人公であるマレーシア出身のJho Low氏が、欧米での留学中に得た人脈を足掛かりに、中東の有力者やNajib前首相などと関係を築き、その関係を利用して1MDBの資金を大胆に流用していく様子が詳しく描かれていて、非常に興味深かったです。また、金融機関等の人達が、Jho Low氏の行為を怪しく思いながらも、結果的に、報酬に目がくらんでマネーロンダリング等に協力していく様や、Najib前首相が、自分を追求しようとしている人達を容赦なく弾圧していく様は、読んでいてなかなか恐ろしかったです…

新聞報道のとおり、現在、マレーシアにてNajib前首相の公判中で、検察側はNajib前首相が不正流用を「主導した」と主張しているようですが、本書を読むとJohn Low氏が不正流用を主導していたようにも読め、公判がどう展開するのか気になっております…

数年に亘る丹念な調査を基に、Jho Low氏とその周りの人々の様子が生々しく描かれており、また、ペーパーカンパニーや弁護士信託口座などを使ったマネーロンダリングのやり方についても丁寧に説明されており、とても興味深く読めました。特に、海外の政治やビジネスに興味がある方にはお勧めできる本だと思います。

2019年6月 1日 (土)

Reinventing organizations

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「ティール組織」という組織論の本が話題になっており、面白そうだったので原書で読んでみました。

本書では、これまで時代に合わせて、どのような組織がどのような順番で生まれてきたのか、次のような区分・順番を紹介した上で、これからの時代に求められる組織について考察しております。

1 Red Organizations

 リーダーが、圧倒的な権力や恐怖でメンバーを統率する組織。具体的には、マフィア、ギャングなど。

2 Amber Organizations

 ピラミッド型の階層化された組織で、各人の役割は所属する部門によって固定化され、上の階層からの指示や規則は絶対とされる。このことにより、「1 Red Organizations」に比べて組織は大規模化し、中長期的なプロジェクトに取り組むことが可能になった。具体的には、カトリック教会、軍隊、政府組織など。

3 Orange Organizations

 基本的にはピラミッド型の階層化された組織だが、「2 Amber Organizations」よりも部門間の垣根は低くなり、プロジェクト・チームを編成する等、柔軟な組織運営が行われるようになる。各部門は、上の階層から与えられた目標(値)に向って動き、その達成度合いにより評価される。効率性・合理性が最優先とされ、現状を改善する為に創意工夫が行われるようになる。民間企業において現在主流となっている組織。

4 Green Organizations

 「3 Orange Organizations」の組織構造を残しつつ、大部分の決定権を最前線の部門に与えようとする組織。各人は、細かな規則や目標(値)ではなく、組織で共有された固有の価値感・文化を尊重して主体的に動くことになる。従って、リーダーの主な仕事は、自ら決定をすることよりも、各人のモチベーションやスキルを向上させることの方が重要になる。一部の民間企業、非営利組織等で実践されている。

5 Teal Organizations

 本部機能が極めて小さい、フラット化されたシンプルな組織で、本部機能に決定権は殆どなく、ほぼ全ての決定権を最前線のグループに与えている。各人は、属するグループ内外の仲間の協力・助言を得ながら、組織の向うべき方向性を自ら考え、主体的に動く。また、各人の役割は、状況に応じて柔軟に変更される。従って、リーダーの主な仕事は、フラット化した組織が上手く回るような仕組みづくりが中心となる。実践している組織はまだ少ないが、大きな成果を出している組織もある。

 

著者は、利益や物質的な豊かさの追求がもたらした様々な問題(地球温暖化、化石燃料の枯渇、貧富差の拡大、働く意味への疑問等々)に直面している世界の現状を鑑みると、現在、世の中の主流になっている「3 Orange Organizations」では明らかに限界が来ており、これらの困難な問題を解決できる可能性があるのは「5 Teal Organizations」であると考えています。そして、その具体的な実践方法(採用、勤務形態、人事評価、会議、意思決定、トラブル解決、情報共有等の方法)について、主に「3 Orange Organizations」の実践方法と比較しながら紹介・提案しています。

個人的には、著者の提案する「5 Teal Organizations」の理念とその実践方法には共感できる点が多かったのですが、自分の勤務先は「2 Amber Organizations」の面影が残る「3 Orange Organizations」だと思いますので、そこで実践していくのはなかなか難しいと感じております。それでも、自分の属する部門内で、可能な範囲で実践していければいいなぁ…と思っております。

原書が出版されたのは2014年で、少し前になるのですが、内容に古さは感じませんでした。後半、少しだけ冗長な感じがしましたが、「5 Teal Organizations」の具体的事例(具体的な会社)が沢山取り上げられており、また文章も分かり易くかかれており、比較的読み易かったです。これからの組織のあり方に興味がある方には、お勧めできる本だと思います。

ちなみに、本書で「5 Teal Organizations」の例として取り上げられている、オランダで訪問看護事業を行うBuurtzorgについては、日本で保育園を運営しているNPO法人フローレンスが訪問して記事にしておりますので、参考になるかと思います。

https://florence.or.jp/news/2019/04/post31322/

また、本書の日本語訳はこちらになります。

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