フィクション

2023年7月 8日 (土)

Himawari House / Harmony Becker

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先日読んだ「THE CULTURE MAP」に続いて、異文化理解を深めようということで読んでみました。渡辺由佳里さんの「洋書ファンクラブ」で紹介されていたグラフィックノベル(漫画)です。2021年の作品。

話の舞台は日本で、主人公はシェアハウスで一緒に暮らす3人の若者。一人は日本で生まれアメリカで育った高校を卒業したばかりのNao、一人は韓国の大学を辞めて日本に来たHyejung、もう一人はシンガポールから日本に来たTina。この3人に、シェアハウスで一緒に暮らす日本人の兄弟、真一と正樹が関係してきます。

Naoが日本に滞在する一年間の出来事が描かれているのですが、それぞれが抱える将来への期待や不安、日本で感じる疎外感や戸惑いや喜び、育った国・環境による考え方の違い等々、3人の主人公の思いが生き生きと表現されています。日本に来る前の回想シーンにも、心を動かされました。恋愛とかもあるので、私くらいの年になると、正直読んでいて恥ずかしくなってくる場面もあるのですが、それでも最後まで楽しく読むことができました。

異なる文化的背景を持つ若者たちが心を通わせる、心温まる話ですが、多様性の意義や、これからの日本の在り方等々についても少し考えさせられました。特に、主人公たちと世代が近い高校生から20代の人たちは、共感できる場面が多いかと思います。

基本的には英語の漫画ですが、日本が舞台で、英語だけでなく日本語や韓国語も出てくるので、我々日本人には読みやすいと思います。と言うより、英語と日本語の両方を読めた方が、話をより理解できるかと思います。

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また、日本人、韓国人、シンガポール人の英語の発音の特徴が、以下のような形で英語で表現されているので、最初はちょっと戸惑うかもしれませんが、読んでいるうちに慣れてくると思います。 

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漫画なので普通の洋書に比べて読みやすく、洋書を読む入り口としてもお勧めできると思います。洋書に慣れている方には少し物足りないかもしれませんが、なかなか面白い本ですので一度手に取ってみて下さいませ。

2021年9月18日 (土)

DEAR LIFE

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2013年にノーベル文学賞を受賞したAlice Munro氏の短編集(2012年)です。

Alice Munro氏の作品を一冊くらいは読んでおきたいなぁ…と思って読み始めたのですが、「あれ、この話、知ってる」。いつ頃読んだのか、洋書で読んだのか邦訳を読んだのか、全く覚えがないのですが、「どの話も、断片的に、記憶がある」。ただ、どの話も結末を覚えていなかったので、初めから終わりまで堪能することができました。

まずは、短編が10話。

どの話も、登場人物は、素晴らしいことを成し遂げるのでもなく、立派な人生を送るのでもなく、それぞれの生活をその人なりの思いで過ごしています。その生活の中で、困った出来事や、いらいらする出来事や、楽しい出来事や、悲しい出来事や、気になる出来事が起き、登場人物の感情が揺れ動きます。それぞれの出来事や登場人物の心情が淡々と描かれているのですが、いつの間にか話に引き込まれていくのは、著者の描写が巧みだからでしょうか。また、いらいらする出来事も悲しい出来事も、ちょっとしたユーモアを交えながら語られるので、それほど辛くならずに読むことができました。

個人的には、読んでいるこちらもだんだん不安になってくる、"IN SIGHT OF THE LAKE"が一番印象に残りました。自分にもこんな経験が、しばしばあるので…

最後に、自伝的な短編が4話。

著者自身の子供時代の経験を元にした短編。話の内容からすると、著者の子供時代はなかなかに大変だったように思うのですが、読んでいても悲壮感は感じませんでした。最後の話が特に印象的で、本書の題名"DEAR LIFE"の由来もここで分かります。

自伝的な短編も含めて、どの話も人間の不完全さ(滑稽さ、不合理さ、悲しさ、弱さ、はかなさ…)が、冷めているようで優しい目線で描かれていて、読み終わった後に温かい気持ちになれました。また、全体的に、Pathos(哀感)を感じる作品が多かったように思います。

おそらく読んだのは2回目なのですが、やはり、フィクションが苦手な私には英語表現が難しく、著者の意図をつかみ切れていないであろう箇所も沢山ありました。それでも1回目よりは深く味わえたと思うので、改めて読んでみて良かったです。

人を選ぶとは思いますが、ある程度洋書を読み慣れている方にはお勧めできると思います。一編一編、読後感を楽しみながら読むことのできる本だと思います。

邦訳はこちら

2021年4月29日 (木)

Never Let Me Go

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何年も前から、いつかは読みたいと思っていたのですが、なんとなく先送りにしていた本です。ここのところノンフィクションが続いていたので、良いタイミングに思えて手に取ってみました。2005年に出版された作品で、渡辺由佳里さんの「ジャンル別 洋書ベスト500」にも掲載されております。

寄宿舎(のような施設)で青年期まで過ごした主人公(Kathy H.)が、10年以上務めてきた"carer"という仕事を終えるにあたり、親友であるRuth、そしてTommyとの思い出を寄宿舎時代から振り返る形で話が進みます。「carer」「donation」「guardian」「madam」「gallery」といった言葉が、いったい何を意味するのかよく分からないまま話が進行していくのですが、次第にその意味が分かってきます。

2017年にノーベル文学賞を受賞したKazuo Ishiguro氏の代表作の一つであり、あらすじは様々なところで紹介されていると思いますので、ここでは触れないでおきます。フィクションなのですが、将来的には十分起こりそうな話であり、また、現実の搾取されている人たちの状況を仄めかしているようにも思えて、読んだ後はいろいろと考えてしまいました。

また、Kathyたちの寄宿舎時代の出来事を読んでいる時は、何故か、我が家の子供たちが読んでいる漫画(観ているアニメ)「約束のネバーランド」が頭に浮かんでおりました。約ネバのように、寄宿舎(のような施設)の子供たちが救われることはないんですけどね…

表現的に難しい箇所が所々ありましたが、思っていたよりも読み易かったです。早朝の通勤電車で少しずつ読み進めていったのですが、最後の数章だけは、これまでの話がつながってくるので一気に読んでしまいました。

改めて言うまでもないとは思いますが、お勧めの物語です。

邦訳はこちら

2019年2月11日 (月)

読みました(洋書/フィクション) ~ Eleanor Oliphant is Completely Fine

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この本も、渡辺由佳里さんの洋書ファンクラブで紹介されていて面白そうだったので、読んでみました。

 

主人公のEleanorは、周りの人たちと打ち解けないでいる、ちょっと変わった、周りから浮いた存在。そんなEleanorの視点で物語は進んでいきます。

 

Eleanorには友人は一人もいないし、家族・親戚も、週に一度電話をする仲が悪そうな母親がいるだけ。毎日の生活も、職場、お店、家を行き来するだけの単調な日々。それでも、Eleanorは、自分で自分の生活をしっかりコントロールできていることに満足している様子…

 

そんなある日、Eleanorの職場にIT担当のRaymondが入ってきて、Eleanorに声をかけるようになり…

 

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物語のテーマは結構重いです。物語の前半から、それを予感させる箇所が少しずつ出てきます。それでも、Eleanorの思考や、Eleanorと周りの人たち(特にRaymond)との掛け合いが面白く、楽しく読み進めることができました。また、Eleanorの考え方は確かに変わっているのですが、個人的には共感できるところもあり、なかなか興味深かったです。

 

また、(母親の影響で)Eleanorは言葉遣いが少し変わっており、そのせいでしょうか、あまり見かけない単語も沢山出てきて、単語力の弱い私には読むのに少し骨が折れました。

 

全体的には、Raymondのキャラクターが出来すぎな感じもしたのですが、それでも、なかなか良い物語でした。日本語訳も出ていますが、こちらも良さそうですね。

 

 

2017年12月23日 (土)

読みました(洋書/児童書) ~ James and the Giant Peach

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Roald Dahlの作品。本作も、メルカリで古本を買いました。

 

両親を亡くしたJamesは、意地悪で利己的なおばさん二人に引き取られ、惨めな暮らしをしていました。ある日、奇妙な老人に出会い、沢山の小さな緑色の粒をもらうのですが、それを庭にある桃の木の根元にこぼしてしまい…

 

…その後、巨大な桃に乗って、人と同じサイズになった言葉を喋る虫たちと冒険することになるのですが、その虫たちのドタバタぶりがとても面白く、あっという間に読み終わってしまいました。

 

話の展開が突飛で面白いので、"Matilda"や"Charlie and the Chocolate Factory"ほどではありませんが、大人でも楽しめると思います。お勧めです。

2017年12月16日 (土)

読みました(洋書/児童書) ~ Charlie and the Chocolate Factory

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前から一度読みたいと思ってはいたのですが、先日、メルカリで安く出品されていたので、読んでみました。

 

貧しい暮らしをしていたCharlieが、巨大な、でもちょっと怪しいチョコレート工場に招待されることになり、おじいさんと一緒に行くことになります。そこで見たものは…

 

もう少しほのぼのとしたお話を勝手に想像していたのですが、いい意味で期待が裏切られて、とても毒のある、風刺の効いた話で面白かったです。"Matilda"と同じくらい、楽しく読むことができました。大人にもお勧めできる児童書だと思います。

 

Roald Dahlの本は、古本で安く売りに出ていることが多いので、もう少しいろいろと読んでみたいです!

2016年5月20日 (金)

読みました(洋書/ヤングアダルト) ~ Eleanor & PARK

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私の苦手な、あまり好みではないジャンル(YA/ヤングアダルト)の本なのですが、評判が良さそうなので、前々から読もうかどうか迷っていました。今年3月の紀伊國屋(梅田本店)の洋書バーゲンで見つけたので、せっかくなので買って読んでみました。渡辺由佳里さんの「洋書ベスト500」にも掲載されております。

 

最近(3年ほど前に)書かれた本ですが、舞台は1980年代のNebraska州Omahaになります。主人公の一人であるParkは、母親が韓国人、父親がアメリカ人のハーフで、音楽や漫画が好きな男の子。もう一人の主人公であるEleanorは、いつも変わった格好をしている赤毛の女の子で、母親の再婚相手が酒飲みで母親に暴力をふるっており、Eleanorのことを疎ましく思っている様子。そんな高校生二人の、一風変わった恋愛物語です。

 

話の出だしから、最後には別れ別れになってしまうことがなんとなく分かってしまうのですが、音楽や漫画を通じて二人が交流を深めていくのを読んでいると、「うまくいって欲しいなぁ…」と思わずにはいられませんでした。最後は、思っていたよりも希望の持てる終わり方になっており、なんだかほっとしました。爽やかな余韻の残る、いい終わり方だと思いました。

 

恋愛物語ですので、正直、この年になると、読んでいて恥ずかしくなる場面も多々あるのですが、人種差別、家庭内暴力、離婚、貧困、いじめ等々の問題も絡み合っていて、思っていたよりも興味深く読むことができました。特に最後の100頁くらいは、話に引き込まれて一気に読んでしまいました。物語の進み方(テンポ)も、丁度良いと思いました。

 

残念だったのは、物語に出てくる具体的な音楽や漫画について、私に殆ど知識がなかったこと。もし知識があれば、より一層、この物語を楽しめたのになぁ…

 

YAなので、好みが分かれるとは思いますが、なかなか良い本だと思いました。

2015年12月26日 (土)

読みました(洋書/フィクション) ~ To Kill a Mockingbird

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渡辺由佳里さんの「洋書ベスト500」にも掲載されている名著です。1930年代のアメリカ南部アラバマ州の静かな町が舞台となっています。50年以上前の作品なので、読もうかどうか迷っていたのですが、先日古本を見つけたので、これを機会に読んでみました。

 

 

無実にも拘わらず裁判にかけられてしまう黒人のTom Robinson、Tomを救おうとする白人の弁護士のAtticus Finch、一家の世間体を守るためにTomを犠牲にしようとするRobert EwellとMayella Ewellの父と娘、この裁判を中心に据えながら、物語が展開していきます。

 

 

当時のアメリカ南部における黒人に対する厳しい差別・偏見が主要なテーマになっていると思いますが、物語がAtticusの娘であるScoutの視点から語られることにより、適度にユーモアがちりばめられていて、読んでいてそれほど辛くはなりませんでした。

 

 

Finch家の隣に住んでいるが、Scoutも兄のJemも一度も見かけたことのないBoo Radleyという人物が、この物語で大きな役割を果たしているのですが、それは読んでからのお楽しみ…

 

 

この本を読んで、Michael Sandelの"Justice"を読んだ時以上に、「何が正義なのか?」について深く考えさせられました。さすが、長く読み継がれている本だと思いました。

 

 

洋書の難易度としては、くだけた表現が多く、知らない単語も沢山あり、また1960年の作品ということもあってか、物語の始めの方は読みづらい印象を受けました。ただ、中盤からは物語の魅力に引き込まれて、どんどん読むペースが上がりました。少し苦労してでも読んでみる価値のある本だと思いました。

 

 

翻訳では「アラバマ物語」との題名になっています。

2015年11月 1日 (日)

読みました(洋書/児童書) ~ The One and Only Ivan

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洋書ファンクラブの「2013年 これを読まずして年は越せないで賞(児童書/YA部門)」の候補作です。渡辺由佳里さんの「洋書ベスト500」にも掲載されています。ショッピング・モールで見世物として飼われているゴリラが主人公の物語です。

 

ゴリラのIvanは、幼い頃にジャングルから連れてこられ、人間の家庭で育てられ、その後、ショッピング・モールにある檻の中で暮らしていました。ゴリラのIvanには、隣の檻にいるゾウのStella、野良犬のBobという友達がいました。そして新たに、子供のゾウのRubyがショッピング・モールに連れてこられます。

 

Ivanは、人の言葉をそれなりに理解できるし、Stella、Bob、Rubyとは会話することもできます。Ivanは、檻の中での生活を自分の運命として受け入れ、淡々と日々を過ごしていたのですが、新しく連れてこられたRubyが辛い思いをしているのを目の当たりにして、Ivanの気持ちに変化が現れます…

 

後書きによると、物語自体はフィクションなのですが、Ivanは実在するとのことです。実在のIvanは、物語と同様に、幼い頃に中部アフリカで捕まえられてアメリカに送られ、人間の家庭で育てられていましたが、家庭で育てられなくなると、ワシントン州のショッピング・モールに送られて、そこで27年間、檻の中で暮らしていたとのことです。そして、ショッピング・モールが倒産した後に、アトランタ動物園でゴリラの仲間達と一緒に過ごすことになった、とのことです。Ivanは2012年に亡くなったようです。

 

アトランタ動物園のIvanに関する情報 ⇒ http://www.zooatlanta.org/ivan?ff_s=U-JQ1A

 

250頁ほどある本ですが、物語が1、2頁ごとに区切られていて、テンポ良く場面が展開していくので、とても読みやすいと思います。馴染みのない単語も出てきましたが、思ったよりも早く読み終わりました。

 

物語には、確かに読んでいて辛くなる場面もあるのですが、IvanとStella、Bob、Ruby、そして清掃係の子供Juliaとの会話・交流にユーモアがあり、全体的には心温まる物語でした。また、人間側にもそれぞれの事情があり、そのことが物語の深みを増していると思いました。

 

児童書ですが、いろいろ考えさせられる場面も多く、大人の方にも十分お勧めできる本だと思います。

2014年12月20日 (土)

読みました(洋書/フィクション) ~ GONE GIRL

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半年以上前に、紀伊國屋(梅田)の洋書バーゲンで購入した本です。なんとか映画の公開前に読み終わろうと思っていたのですが、間に合いませんでした。

 

主人公のAmyとNickは、お互いに魅かれて結婚したはずなのだが、時間と共に2人の間の溝は深まり、2人の失業や、Amyの両親の金銭的な破綻や、Nickの母親の重病等も重なり、その溝は修復し難いものになっていった。そして、5年目の結婚記念日に、Amyが突然姿を消す…

 

なぜAmyはいなくなったのか、犯人はいったい誰なのか、AmyとNickとが交互にストーリーを語っていくなかで、次第に真実が明らかになっていきます。

 

先がどうなるのか早く知りたくて、最後の100頁くらいは、引き込まれて一気に読んでしまいました。

 

とても面白い話なので、一読の価値はあるかと思うのですが、個人的には、終わり方がどうも好きになれませんでした…

 

この本については、渡辺由佳里さんの洋書ファンクラブでの紹介記事が一番参考になると思いますので、こちらも合わせてお読み下さい。