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2018年3月30日 (金)

読みました(洋書/経済学) ~ Misbehaving

2017年にノーベル経済学賞を受賞したRichard H. Thaler氏の書いた、行動経済学に関する本です。但し、学問書というよりは、行動経済学の黎明期から、今日、行動経済学が経済学の重要分野として認知されるまでの経緯、苦労話等々を交えながら、分かりやすく行動経済学の内容、面白さを説明している本です。

私は行動経済学についてあまり理解していなかったのですが、話の中に、今まで読んだ洋書の著者も沢山出てきて("Thinking, Fast and Slow"のDaniel Kahneman、"The Marshmallow Test"のWalter Mischel、"Made to Stick"のChip Heath、"The Signal and the Noise"のNate Silver)、あれもこれも行動経済学と関連していたのだなぁ…と新たな発見がありました。

伝統的な経済学では、すべての人が経済的に合理的な行動をとることを前提に理論が構築されてきたのですが、現実の人間を観察すると、必ずしも経済的に合理的な行動をとっていはいないことに気がつきます。

例えば、

・現実の人間にとっては、「失う痛み」は「得る喜び」よりも重い、例えば「今持っている100万円を失う痛み」は「新たに100万円を得る喜び」よりもかなり(約2倍)大きいので、経済的に不合理であっても、必要以上に損失を被るリスクを避ける傾向がある。

・現実の人間にとっては、同じ金額であっても文脈により意味合いが変わってくる。例えば「20,000円のテレビが他店で15,000円で買える嬉しさ(5,000円引き)」は「2,000,000円の車が他店で1,995,000円で買える嬉しさ(こちらも5,000円引き)」よりもかなり大きい。従って、同じ金額が節約できるにも拘らず、前者の場合にはわざわざ他店に買いに行く可能性が高くなるが、後者の場合には他店に行く可能性はより低くなる。

・現実の人間は、「お買い得(positive transaction utility)」に弱いので、「お買い得」だと必要のない物まで買ってしまうことが多い。逆に「値上げ(negative transaction utility)」に対しては、たとえ需要と供給のバランスからして妥当だったとしても、過度に反発する傾向がある。

・現実の人間は、不誠実な行動をする人を罰する為には、自分の利益を犠牲にする(経済的に不合理な行動をとる)傾向がある。

・sunk costs(既に支出してしまった費用)は、新たな判断をする際には考慮しないのが経済的に合理的であるが、現実の人間は、sunk costsを取り戻そうとする傾向がある。例えば、高かった靴は、自分の足に合わなくても履き続けてしまい、結果として靴擦れになって病院に行くことになる、といったような不合理な行動をとってしまう。

・株式市場においては、数年にわたり業績が低迷している会社は、将来も業績が回復する見込みのない「敗者」としてレッテルを貼られる傾向があり、経済的に合理的な範囲を超えて株価が低迷する傾向がある。

・現実の人間は、現状維持に流れがちな傾向があるので、現状を変える方が経済的に合理的であったとしても、現状を維持してしまう傾向がある。

・現実の人間は、「将来」手に入るお金や物よりも、「今すぐ」手に入るお金や物の方を過大評価する傾向がある。

従って、経済学で現実の世の中を説明したり、経済学を現実の世の中に応用したりする(行政において政策を立案する、会社において戦略を立案する等)為には、伝統的な経済学だけでは不十分で、現実の人間の行動傾向を踏まえて、伝統的な経済学を修正して活用する必要があります。

例えば、

・ある会社において「2億円の利益が出る確率が50%、1億円の損失が出る確率が50%のプロジェクト」が20件あったとすると、会社としてはすべてのプロジェクトを実施するのが経済的に合理的だが、1件ごとに1人の責任者を定めてプロジェクトを実施するか決定させると、「利益が出る可能性」よりも「損失が出る可能性」を過度に恐れてプロジェクトを実施しないと判断する(現状維持に流れる)者がかなり出てくる。
 従って、各責任者が損失を過度に恐れず(現状維持に流れず)合理的な判断をするよう促すためには、損失発生を過度に責めない、利益獲得をきちんと評価する、バランスの良い評価の仕組みを経営者が意図的に作る必要がある。

・退職に備えた貯蓄プランへの従業員の参加率を上げるには、「貯蓄プランへの参加」をデフォルトとして設定した上で「参加したくない人」だけが不参加申請をする形にした方が、「参加したい人」が参加申請する形にするよりも、参加率は上がる。(人は現状維持に流れる傾向があるので…)
 また、「当初」は月々の貯蓄額を低く設定して、「将来」給料が上がったら月々の貯蓄額も上がっていく仕組みにしておくと、より参加率が上がる。(人は「現在」の負担額に過度に反応する傾向があるので…)

・マーケットが常に合理的な判断をする訳ではないと理解した上で、株価、不動産価格等の異常な高騰が続いた場合には(バブル)、政府の介入を検討する必要がある(「神の見えざる手」に任せきりにしない)。

というようなことがあります。このように、伝統的な経済学を現実に合わせて修正していく学問が行動経済学であると、私は理解しました。

一見すると、行動経済学と伝統的な経済学は対立しているように思えてしまいますが、著者は「伝統的な経済学の理論は、ベースになる理論として大事であり、決して行動経済学と対立するものではない。」とも述べております。この点は十分理解しておく必要があると思いました。

更に著者は、「行動経済学の考え方を現実世界で実践する為には、可能な限り比較試験(randomized control trials)を実施して、出来る限り沢山の客観的なデータを集め、効果を確かめてから幅広い実践に移す必要がある。やみくもに実践すればいいものではない。」とういうことも述べており、この点も非常に大事だと思いました。

毎日、通勤電車の中で読んで、読み終わるのに約2ヶ月かかってしまいましたが、実験、調査、観察、実践の例がとても豊富で幅広く(株式市場の話、貯蓄制度の話から、スキー場の戦略の話、アメフトのドラフトの話、テレビのゲーム・ショウの話まで)、内容も面白く、思ったよりも読み易かったです。行動経済学の入門として、お勧めできると思いました。

ちなみに、邦訳はこちら…

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