ブログの紹介

ご訪問、ありがとうございます! このブログでは、これまでに読んだ洋書の感想を、気ままに書いております。

2008年の終わり頃に、「日本人は英語のインプット量が足りない」というような記事を読んだのを切っ掛けに、趣味で洋書を読むようになりました。それが、細々とですが、現在まで続いております。

私が会社勤めということもあって、ビジネス書の洋書をよく読みます。ノンフィクションも好きでよく読みます。

また、語彙力が弱いからでしょうか、英米の文化・習慣に疎いからでしょうか、フィクションを読むのが苦手です。そのため、フィクションであれば児童書を手に取ることが多いですね。

洋書選びの参考にしているのは、渡辺由佳里さんのブログ「洋書ファンクラブ」と本「洋書ベスト500」です。また、Amazon(アメリカのサイト)での評判も併せて参考にしております。

1ヶ月に1冊分ぐらいしか感想を書いていないので、時々覗きにきていただければ幸いです!

2024年8月24日 (土)

NOISE: A FLAW IN HUMAN JUDGMENT / Daniel Kahneman, Olivier Sibony, Cass R. Sunstein

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何かの記事で見かけて面白そうだったので読んでみました。本書の概要をざっくり書くと以下のような感じかと思います。

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裁判所による量刑、保険会社による保険料の算出、病院による診断及び治療方法の決定、会社等における採用活動及び社員の評価、会社における業績予想やM&A判断等々、組織で行われる様々な判断において、しばしば看過できない不公平、誤りが発生する。

その原因としてはバイアス(組織全体の偏った傾向)とノイズ(人毎の判断基準・能力の違い/その人自身の判断のゆれ)があり、バイアスについては認識され、改善努力が行われることが多いが、ノイズについては認識されることが少ないのが現状である。

実際に組織の判断におけるノイズについて調査してみると、思っていたよりもかなり多くのノイズが存在していることが分かる。ノイズを完全に排除することは難しいが、減らす方策はいくつもある。例えば…

・判断する人に余計な(不必要な)情報を与えない。
・複数の人の判断を平均化する。
・判断する事象に関する平均値(平均的な量刑、保険料、年間売上高、等々)を意識する。
・判断のガイドラインを作成する。
・数値等で評価する場合には、その数値毎にベースとなる具体的事例を用意する。
・評価する項目を明確かつ具体的に定め、一つずつ独立して判断する。

といった方策が挙げられる。ノイズによってもたらされる看過できない不公平や誤りを防ぐためにも、これらの方策を実施することを検討すべきである。

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確かに、判断におけるバイアスについては見聞きすることも多く、日本社会や勤務先や自分が陥りがちなバイアスについて考えることもしばしばあるのですが、ノイズについては考えたことが殆どありませんでした。本書を読むことで、普段意識することのないノイズについてじっくり考えることができ、新たな視点を得ることができたと思います。

10年以上前に読んだDaniel Kahneman氏の「THINKIG, FAST AND SLOW」がそこそこ難しく、当時読むのに苦労したので、本書も身構えて読み始めたのですが、同書と比べると単語が平易で、かなり読みやすかったです。また具体的事例が豊富で、理解もしやすかったです。数式やグラフが出てきたり、400頁弱あったりするので万人にお勧めできるとは思いませんが、読む価値のある本だと思います。

日本語訳はこちら

2024年5月23日 (木)

THE INEVITABLE: Understanding the 12 Technological Forces That Will Shape Our Future / Kevin Kelly

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少し前にツイッター(X)上で見かけて、面白そうだったので読んでみました。本書では、インターネットやAIといった新しいテクノロジーの発展により今後社会がどのような方向に変化していくか、以下の12の項目を挙げて示しています。

1 BECOMING
2 COGNIFYING
3 FLOWING
4 SCREENING
5 ACCESSING
6 SHARING
7 FILTERING
8 REMIXING
9 INTERACTING
10 TRACKING
11 QUESTIONING
12 BEGINNING

1つの項目に1章ずつ割いて、具体的事例を挙げながら丁寧に説明しています。また、各項目が相互に密接に関係していることもよく分かると思います。

「5 ACCESSING」が、私にとっては一番実感できる項目でしょうか。自動車は買わないでカーシェアリング・サービスを使っているし、音楽はCDは殆ど買わずにSpotifyで聴いているし、日経新聞は紙ではなくネットで読んでいるし、自分で撮った動画や写真はハードディスクではなくクラウド上に保存しているし、ゲームはお店でソフト(CD、カード等)を買わずにネットからダウンロードしたりクラウド上で遊んだりしているし、年々物を所有しなくなってきていますよね。

「11 QUESTIONING」についても、仕事をしている上で実感するようになってきました。例えば、法務業務について言えば、私が入社した数十年前は法律の知識を沢山持っていることが重要だったように思うのですが、今や法律の知識はネット上で比較的容易に得ることができ、沢山の知識を持っていることよりも良い問いを立てる(例えば、どのような問題事象が起こりうるのか考えて提示する)ことができる方が重要になってきていると思います。

「1 BECOMING」については、本書を読むまでは、Windowsやウイルス対策ソフトやスマホのアプリが更新される度に「現在のバージョンに慣れたばかりなのに…」と不満に思っていたのですが、「たえず更新される」のは新しいテクノロジーが持つ性質であり避けられないことが理解できたので、「慣れるしかないか…」と少しは思えるようになりました。

「2 COGNIFYING」については、我々はAIやロボットと競争するのではなく、AIやロボットと共に変化していくのである、という考え方が、前向きな捉え方でいいなぁ…と思いました。

こんな感じで、各項目とも興味深く読むことが出来ました。出版されてから8年くらい経っていますが、今読んでも十分示唆に富む本だと思います。単語もそれほど難しくなく比較的読みやすいので、お勧めできる洋書だと思います。

日本語訳はこちら

 

2023年7月 8日 (土)

Himawari House / Harmony Becker

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先日読んだ「THE CULTURE MAP」に続いて、異文化理解を深めようということで読んでみました。渡辺由佳里さんの「洋書ファンクラブ」で紹介されていたグラフィックノベル(漫画)です。2021年の作品。

話の舞台は日本で、主人公はシェアハウスで一緒に暮らす3人の若者。一人は日本で生まれアメリカで育った高校を卒業したばかりのNao、一人は韓国の大学を辞めて日本に来たHyejung、もう一人はシンガポールから日本に来たTina。この3人に、シェアハウスで一緒に暮らす日本人の兄弟、真一と正樹が関係してきます。

Naoが日本に滞在する一年間の出来事が描かれているのですが、それぞれが抱える将来への期待や不安、日本で感じる疎外感や戸惑いや喜び、育った国・環境による考え方の違い等々、3人の主人公の思いが生き生きと表現されています。日本に来る前の回想シーンにも、心を動かされました。恋愛とかもあるので、私くらいの年になると、正直読んでいて恥ずかしくなってくる場面もあるのですが、それでも最後まで楽しく読むことができました。

異なる文化的背景を持つ若者たちが心を通わせる、心温まる話ですが、多様性の意義や、これからの日本の在り方等々についても少し考えさせられました。特に、主人公たちと世代が近い高校生から20代の人たちは、共感できる場面が多いかと思います。

基本的には英語の漫画ですが、日本が舞台で、英語だけでなく日本語や韓国語も出てくるので、我々日本人には読みやすいと思います。と言うより、英語と日本語の両方を読めた方が、話をより理解できるかと思います。

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また、日本人、韓国人、シンガポール人の英語の発音の特徴が、以下のような形で英語で表現されているので、最初はちょっと戸惑うかもしれませんが、読んでいるうちに慣れてくると思います。 

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漫画なので普通の洋書に比べて読みやすく、洋書を読む入り口としてもお勧めできると思います。洋書に慣れている方には少し物足りないかもしれませんが、なかなか面白い本ですので一度手に取ってみて下さいませ。

2023年6月24日 (土)

THE CULTURE MAP / decoding how people think, lead, and get things done across cultures

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本書は、以前書店で見かけて気にはなっていたのですが、昨年読んだ「NO RULES RULES / NETFLIX and the Culture of Reinvention」に出てきたので、これを機会に読んでみました。2014年出版と少し古いですが、とても参考になりました。

国境をまたいで世界でビジネスを展開するにあたって、各国の文化・考え方の違いが障害になることが多いようです。本書では、まずは各国の文化・考え方の違いを明らかにし、その上でその違いをどのように乗り越えていったらよいかを提示しております。

本書では、以下の8つの点について、各国の文化・考え方の違いを整理しています。

1 コミュニケーションの方法が、どのくらい簡潔で明確で直接的か? どのくらい行間を読む必要があるか?

 (Low-Context or High-Context)

 →日本は最もHigh-Contextな国の一つ。

2 否定的な評価を、相手にどのくらい率直に直接的に伝えるか?

 (Direct negative feedback or Indirect negative feedback)

 →日本は最もIndirect negative feedbackな国の一つ。

3 相手を説得する時に、理論や理屈から入るか、事例や個人的見解から入るか、それともまず全体を俯瞰するか?

 (Principles-first or Applications-first, or Holistic thinking)

 →日本は他のアジアの国と同様にHolistic thinking。

4 上司と部下の距離はどのくらい離れているか、組織はどのくらい階層的か?

 (Egalitarian or Hierarchical)

 →日本は最もHierarchicalな国の一つ。

5 意思決定は、どのくらいトップダウンでなされるか?

 (Consensual or Top-down)

 →日本は最もConsensualな国の一つ。

6 ビジネス上の信頼関係が、どのくらい非公式な場、個人的な付き合いで築かれるか?

 (Task-based or Relationship-based)

 →日本はRelationship-based寄り。

7 不同意を、相手にどのくらい公に直接的に伝えるか?

 (Confrontational or Avoids confrontation)

 →日本は最もAvoids confrontationな国の一つ。

8 スケジュールや物事を進める順番をどのくらい正確に守るか?

 (Linear-time or Flexible-time)

 →日本はかなりLinear-time寄り。

各国の文化・考え方の違いを押さえるにあたり留意すべき点として、違いは相対的に捉える必要があるとのことです。例えば、アメリカ人とイギリス人で構成されるチームでは、イギリス人は「アメリカ人と比べて」どのような傾向があるのかを考える必要があるとのことです。

各国の文化・考え方の違いを乗り越える方法も、上記の8つの論点毎に丁寧に記載されていますが、大まかに言うと、チームを組んだ初期の段階で、各国の文化・考え方の違い・傾向についてお互いに話し合って理解した上で、今回のチームで適応されるルール(プロジェクトの進め方)について合意する、という手順を踏むのが効果的なようです。

本書では日本での事例が頻繁に出てくるので、日本人として当事者意識を持って本書を興味深く読むことができました。特に、上記の5点目(意思決定の仕方)において、日本の稟議書の仕組みについて「The Japanese Ringi System: Hierarchical But Ultra-Consensual」として5頁に亘って記載されているのが興味深かったです。常々「日本の会社では、意思決定が遅いよなぁ…役職者が偉そうにしている割には責任取らないよなぁ…」と思っていたので、その理由か分かったような気がして少しすっきりしました。あと、自分のこれまでの会社人生を振り返ると、会議等の大勢がいる場で、自分の意見を積極的に述べたり、役職が上の人の意見に対して異を唱えたり指摘したりしてきたのですが、日本の文化にはあまり馴染まないやり方だったなぁ…としみじみ思いました。風通しが良い組織になかなかならないのも、日本人の文化・考え方が影響していることが良く分かりました。

洋書の読み易さとしては、文章も単語も比較的平易で、読み易いと思います。

各国の文化・考え方の違いについて述べている本ではありますが、その過程で日本の文化・考え方の特徴も理解できるようになる(相対化できる)良書だと思います。これからのビジネスは、日本の少子高齢化も相まって、世界の方々と広く付き合っていかないと成り立たなくなると思いますので、本書は強くお勧めできると思います。私としては、若い時に読んでおきたかった…

日本語訳はこちら

2023年4月18日 (火)

Influence / The Psychology of Persuasion

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Guy Kawasaki氏がTEDの講演(の動画)で勧めていたので読んでみました。人の意思決定に大きな影響を与える要素として7つ原則を挙げ、一つずつ章ごとに説明していきます。

自分自身の経験に照らし合わせながら読むと「なるほどなぁ…」と思うことが沢山あり、最後まで楽しく読むことができました。例えば、茶葉の販売イベント(ルピシアのグラン・マルシェ)では、入場時にセンスの良い記念品がもらえるのですが、これは本書で言う「Reciprocation」の原則(他人に何かしてもらった時にはお返しをしたくなる人の性質)を期待していることが分かりますし、イベント会場のみの限定商品を用意するのは「Scarcity」の原則(手に入りにくいものはきっと良いものだろうと思う人の性質)を期待していることが分かります。また、「一番人気」や「売上第一位」との表示は「Social Proof」の原則(皆が良いと言っているものはきっと良いものだろうと思う人の性質)を、「バイヤーお勧め」との表示は「Authority」の原則(専門家が良いと言っているものはきっと良いものだろうと思う人の性質)を期待しているだと思います。

著者のRobert Cialdini氏は、人がそれらの7つの原則を使って意思決定すること、人がそれらの原則を使って相手の行動を促すことは非難しておらず、それらの原則を使おうとして「嘘をつく」ことを厳しく非難しています。上記のルピシアの例で言うと、もし仮に、イベント後にもお店で販売する予定にも拘らず「イベント限定」とうたって販売したら、それは厳しい非難に値するでしょう。これだけ情報が溢れかえる世の中になり、人がそれらの7つの原則を使わずにすべての意思決定を行うことは不可能なので、それらの原則を悪用することを決して許してはならないと強く主張しております。

洋書としては、具体的事例が豊富で読み易いと思いますが、なにせ400頁以上もあるので、読み終わるのに4ヶ月もかかってしまいました。途中で飽きることはありませんでしたが…

邦訳はこれかな?

2022年11月 6日 (日)

mindset / Changing the way you think to fulfil your potential

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教育関連の洋書で"mindset"という言葉がよく出てくるので気にはなっていたのですが、先日YouTubeで観たGuy Kawasaki氏のTEDでの講演でも本書がお勧めされていたので、読んでみることにしました。渡辺由佳里さんの「洋書ベスト500」にも掲載されています。

mindsetには、fixed mindsetとgrowth mindsetとがあり、前者は「能力は生まれ持ったものであり、努力で改善できる余地は少ない」という考え方で、後者は「能力は生まれ持ったものという側面もあるが、適切な努力で向上させることができる」という考え方です。著者のCarol S. Dweck氏は、大人も子供もgrowth mindsetを持つことで自分の可能性を最大限生かすことができる、と主張しています。

とはいっても、人は、fixed mindsetの人とgrowth mindsetの人に明確に分けられる訳ではなく、殆どの人は両方の側面を持っているとのことです。各人にとってfixed mindsetになりやすい場面というのがそれぞれあり、そういう場面になったら、まずは「fixed mindsetになっている自分自身」を否定せず受け入れ、そういう自分と対話しながら、growth mindsetを持って少しずつチャレンジしていく必要があるとのことです。一度上手くいっても、油断をしていると直ぐにfixed mindsetが表れてきがちなので、継続した努力・意識が必要とのことです。

また、指導教育する人たち(親や先生やコーチ)は、子供や生徒や選手がgrowth mindsetを持てるような環境作りをしていく必要があるとのことです。例えば…

・子供等が何か上手くいった、成果を上げた時には、その人の才能を褒めるのではなく、その人の努力の過程、戦略、工夫等を評価する。

・子供等が何か上手くいかなかった、失敗した時には、その人がどのような努力をしたかに関心を持つと共に、失敗から何が学べるか、次はどんな戦略、工夫等をしたら良さそうか、子供等と一緒に考える。

・人の能力は、今の能力を少し超えたチャレンジをすることで少しずつ伸びていくという事実を、ことあるごとに伝えていく。

・自分自身も、能力を向上させる為に絶えず学ぶ姿勢を持ち、その姿を子供等に見せる。

といったような働きかけをすると良いそうです。

その他、印象に残った箇所としては、

・fixed mindsetの人が経営者になると恐ろしい。自分の優位性・優越性を守る為に、自分より優秀そうな人を退けたり、自分の意に沿わない意見に耳を貸さなくなったりして、次第に会社がおかしくなっていく。

・理数分野でのジェンダーギャップの要因としては、「女性は理数系が苦手であるといったステレオタイプ」や「女性の、他人の自分に対する評価を信頼しがちな傾向」といった要因のほかに、「理数系の才能は生まれ持ったものである(努力では向上しない)と考えるfixed mindset」も挙げられる。

・夫婦関係においてもgrowth mindsetは大事である。自分にとって気になる点が皆無のパートナーなんていない、自分やパートナーの性質は適切な努力により少しずつ変えていくことができるという認識の下、自分の気持ちをパートナーに丁寧に伝えつつ、パートナーの話にも耳を傾けて、お互いに歩み寄っていくことが大事である。

・認知療法は一定の成果を上げているが、現状を客観的に認識することが主題であり、fixed mindsetからgrowth mindsetへ導くようなものではない。(私が生きていくうえで認知療法の考えはとても役立っているのですが、そのような限界があることも納得できましたので、これからは「認知療法+growth mindset」という組み合わせで試してみたいと思います。)

といったあたりでしょうか。

2006年に出版された本ですが、2017年にアップデートされており、古さは感じませんでした。具体的事例が多く載っており、文章も分かりやすいので、最後まで飽きずに楽しく読むことが出来ました。年を取ってくると、難しいことに挑戦する元気がなくなってきがちですが、本書を読んで「何かチャレンジしようかなぁ…」と思わされました。多くの方にお勧めできる本だと思います。

日本語訳はこちら

2022年8月23日 (火)

Regretting Motherhood / A Study

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日本語訳の「母親になって後悔してる」の紹介記事を何かで読んで興味深かったので、せっかくなので洋書で読んでみました。

著者のOrna Donathはイスラエルの社会学者で、「母親になったことを後悔している」イスラエルの女性にインタビューをし、後悔の念の背景を考察していきます。

後悔の念の理由は人それぞれで、

・自分のための時間が持てない。

・パートナーが非協力的で育児が大変。

・絶えず子供のことが頭から離れなくてしんどい。

・自分が主役の人生がなくなってしまった。

等々、いろいろあるようです。パートナーが育児に協力的だったり、社会制度(国・地方自治体の支援等)が充実していれば後悔の念をいだかなかったであろうケースもあれば、そのような協力・支援があったとしてもやはり後悔の念をいだいたであろうケースもあるようです。

「母親になったことを後悔している ≠ 子供を愛していない」ということ、むしろ「母親になったことは後悔しているが、子供は愛している」ケースが多いこともよく理解できました。

また、著者は、今日の社会の問題点についても指摘しています。例えば、

・今日の社会は、女性に対して母親になる以外の選択肢をきちんと示していない、当然に母親になるものだと思わせている。

・今日の社会は、母親の役割を神聖化し過ぎており、母親を一人の主体性を持った人間(様々な希望、考え、感情等を持つ人間)として扱っていない。

等々の問題点を指摘し、女性の主体性を尊重していない、女性に特定の生き方を押し付けている現状を批判しているように思いました。

本書は、タブー視され、抑えられてきた「母親になったことを後悔している」という声が確かに存在することを、明らかにした(書籍という形で公にした)点で評価されるべきだと思いますし、本書を読んで救われた女性も少なからずいると思います。タブー視されてきた内容を、冷静に分析・考察する著者の姿勢にも好感が持てました。

洋書の読み易さとしては、文章が少し読みにくく感じました。また、「考察→インタビュー→考察→インタビュー…」といった感じで淡々と進んでいくので、人によっては読んでいて少し飽きてくるかもしれません。

真面目な内容の本なので、軽い気持ちで読めるような本ではないと思いますが、家族というものを新たな視点から見ることができる良書だと思いますので、できるだけ多くの方に、女性だけでなく男性にも、読んで欲しいなぁ…と思いました。ご興味がありましたら、日本語訳でも洋書でも結構ですので、ぜひ手に取ってみて下さいませ。

今年3月に発売された日本語訳はこちら

2022年7月 6日 (水)

Nomadland / surviving America in the twenty-first century

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本書は、著者のJessica Bruder氏が、2013年の冬頃から約3年に亘って、車上で生活する人たち(vandwellers / nomads)を取材したノンフィクションです。

登場する車上生活者の中には、失業した若者等もいますが、その多くは家賃を払うことが難しくなった高齢者です。その高齢者たちは、2008年の世界金融危機で貯蓄を失ったり、上がらない低賃金のために十分な蓄えができなかったり、健康を害して職を失ったりして、60歳を超えても貯蓄が殆ど無く、年金だけでは暮らしていけない状況に追い込まれ、上昇する家賃を払うのが困難になり、車上生活を送る決断をした人たちです。最大の支出である家賃を払う必要がなくなったとはいえ、やはり年金だけでは生活費が賄えないので、各地の季節労働に従事して生活費を稼ぎながら暮らしていくことになります。

車上生活へ移行することにより、家賃を払うために毎日あくせく働かなければならない状況からは解放され、以前より自由気ままな生活を送っているようにも見えますが、一方で、車上生活は人目を忍びながらの、危険と隣り合わせの放浪生活であり、生活費を稼ぐための季節労働(Amazonの倉庫での仕分け係、キャンプ場の管理人、てんさい(sugar beet)を積んだトラックの受入れ係、遊園地のスタッフ等)はどれもきつい仕事で、決して楽なものではありません。それでも、車上生活を選んだ人たちは、自分の決断を前向きに捉えようとしています。

そのような車上生活者たちの姿を、著者は、自分自身でもバンを購入して車上生活をし、季節労働にも実際に従事しながら、丁寧に描いていきます。話の最初に登場するLinda May氏を中心に、一人一人のこれまでの人生や、その人の考え方が丁寧に生き生きと描かれているので、話の内容に引き込まれてしまいました(通勤電車で読んでいて、一度乗り過ごしました…)。また、車上生活者たちの、限られたスペースで生活するための様々な創意工夫には「すごいなぁ…」と感心してしまい、お互いに助け合って、支え合って暮らす姿には心打たれました。

全体としては、辛い状況にあっても自由を求めて創意工夫で乗り越えていくアメリカの高齢者たちの姿が前向きに描かれていると思うのですが、富める人たちはますます富み、貧しい人たちはますます貧しくなっていくアメリカの現状(負の側面)を改めて思い知らされる本でもありました。

洋書の読み易さとしては、使用されている語句が私にとっては結構難しく、読むのに少し骨が折れました。特に情景描写の箇所が難しく、文章の良さを十分に堪能できなかったのが残念です。沢山出てくる地名も日本人には分かりにくいので、Google Mapで検索しながら読むと良いかと思います。また、話が3年間の取材の真ん中あたりから始まるので、話の前後関係を把握するのに少しだけ手間取りました。

本書は、私のように語彙力が弱いと読み通すのに多少骨が折れるかもしれませんが、描かれている人々の姿に心動かされるものがあったので、多少苦労してでも十分読む価値がある本だと思います。

なお、本書を基にした映画が製作されており、昨年アカデミー賞(作品賞、監督賞、主演女優賞)を受賞しています。本書に登場する車上生活者たちも映画に出演しているようなので(Linda May氏他)、いつか観てみたいと思います。

日本語訳はこちら

2022年4月23日 (土)

NO RULES RULES / NETFLIX and the Culture of Reinvention

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NETFLIXの創業者の一人で現CEOのReed Hastings氏と、ビジネススクールの教授であるErin Meyer氏の共著です。NETFLIXが、イノベーションを起こし続ける為に、どのような企業文化を大切し、その企業文化を維持・強化する為にどのような方策をとっているのか、従業員に対するインタビューを交えながら具体的に分かりやすく説明しています。

2年くらい前に、NETFLIXのもう一人の創業者であるMarc Randolph氏の著書"That Will NEVER Work"を読み終わった後に、Reed Hastings氏の本(本書)が出版されているのを知って、いつか読みたいと思っていたのですが 、やっと読むことができました。

NETFLIXの企業文化は、ざっくりと言うと…

1 優秀な人材しかいないチームを作る。

2 常日頃から、お互いに率直に意見を言い合う。

3 現場の判断に任せる。

の3つに集約されるようです。そして、どれか一つでも欠けると機能しないとのこと。

上記1の文化を実現するためには、報酬は業績連動型にしない、優秀な人材に対してはマーケット以上(他社以上)の報酬を支払う、社内で成績の順位付けをしない、優秀とまでは言えない人材に対しては十分な退職手当を支払って去ってもらう、等の方策をとっています。

上記2の文化を実現するためには、定例会議でフィードバックの機会を設ける、有用な意見交換になるようフィードバックの仕方についてガイドラインを定める(4A : Aim to Assist, Actionable, Appreciate, Accept or Discard)、リーダが率先してフィードバックを求める、できるだけ多くの情報を従業員に開示する、年に1、2回は時間をかけてお互いにフィードバックし合う機会を設ける、等の方策をとっています。

上記3の文化を実現するためには、休暇の取得、経費の支出等について承認不要とする(忙しい期末は避ける、費用対効果を考慮する等、最低限の方針はチーム毎に話し合って決めておく)、自ら決断する前に他のメンバーと意見交換することを求める(但し、上司の顔色を伺うようなことはしない)、会社・部門の目標・戦略をメンバーに明確に伝える、等の方策をとっています。

正直な感想として、普通の会社で上記のような文化・方策を採用するのはちょっと難しいだろう、やり過ぎになってしまうだろう、と思いました(特に上記1)。また、上記のような文化・方策を日本で実践するのは、労働法制、文化等の違いがあるのでなかなか大変だろうと思いました。日本では、既存の会社というよりはスタートアップ等で採用・実践すると良さそうですね。

最後の10章(Bring It All to the World!)では、上記の企業文化を各国の従業員に共有してもらう為にどのような工夫をしているか記載されているのですが、その前提として「NETFLIX(アメリカ寄り)の文化・傾向」と「各国(日本含む)の文化・傾向」との違いがグラフ等で分析されていて、なかなか興味深かったです。1章から9章までは、読んでいて「とても良さそうな企業文化だけど、NETFLIXだからこそ実現できるんだろうなぁ…」という気持ちになりがちだったのですが、この10章は「なるほど、異なった背景を持つ人とコミュニケーションする時に役立ちそう」と思えて、とても参考になりました。

洋書としては、それほど難しい単語がなく、比較的易しい文章で書かれているので、とても読み易かったです。従業員のエピソードも沢山ちりばめられていて、読んでいて面白かったです。NETFLIXに少しでも興味のある方であれば、楽しく読めると思います。

ちなみに、邦訳はこちら

2022年2月10日 (木)

BORN A CRIME - Stories from a South African Childhood

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この本も、出版された頃(2016年)から読みたいと思っていたのですが、やっと読むことができました。

著者(Trevor Noah)はコメディアンで、1984年、まだアパルトヘイト(人種隔離政策、1994年廃止)が廃止される前の南アフリカで、黒人の母親と白人の父親の間に生まれます。本書では、著者の子供時代から青年時代にかけての出来事を、母親(Patricia Nombuyiselo Noah)との関りを軸に描いていきます。

著者の母親は、アパルトヘイト廃止前後の混沌とした社会にあっても自ら人生を切り開いていこうとする、芯の通った強い方だったようで、その母親の愛情を受けて著者が逞しく成長していく過程が、ユーモアを交えながら描かれており、読んでいて楽しかったです。特に、黒人でも白人でもない微妙な立場を、自らの知恵・知識をフル活用して乗り切っていく著者の姿には、思わず拍手を送りたくなりました。ただ、著者は、走行中のバスから母親と一緒に飛び降りたり、万引きが見つかって警察に捕まりそうになったり、CDを違法コピーして稼いだり、他人の車に無断で乗って刑務所に入れられそうになったり…ちょっと冷静に考えると、なかなか恐ろしい出来事が多いです。

本書では、どんな辛い出来事も、コメディアンらしく笑い飛ばしている感じがするのですが、最終章「18 MY MOTHER'S LIFE」だけは少し調子が違いました。母親の再婚相手(Abel)は、普段はまあ良いのですが、お酒を飲んだ時には抑制が効かなくなって家庭内暴力を行い、それが次第に悪化していきます。警察を呼んでも、家庭内の出来事には介入してくれず、状況はひどくなるばかり。母親の後押しもあって、著者は家を出て、なかなか逃げられなかった母親もついに家を出て再婚するのですが、Abelは著者の母親を殺そうと銃口を向け…

アパルトヘイト廃止前後の南アフリカの状況が、著者の目を通して生き生きと描かれていて、興味深く、楽しく読んでいたのですが、最終章だけは読んでいて辛かったです。その最終章で描かれている、家庭内暴力(DV)のもたらす事態の深刻さ、悲惨さが、とても印象に残りました。描かれているの南アフリカでの出来事ですが、テレビ、新聞等でしばしば報じられているとおり、アメリカでも日本でも同様な出来事は続いているので、早くこのような悲劇が無くなる、防げる世の中になって欲しいと改めて思いました。

洋書としては、思っていたよりも単語が難しくて少し手こずりましたが、話が面白いので、読み進めていくのが楽しみでした。広くお勧めできる本だと思います。

邦訳はこちら

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